Who is 田口エリ?
インタビュー・文 :ユリアン 2024
シンガーソングライター、田口エリ。
彩り豊かなファッション、屈託のない笑い声やときどき飛び出すギャグに、竹を割ったような性格が垣間見える。
「自分は音楽家ではない」と言いきる彼女は、それでも紛れもなくアーティストだ。
そんな『田口エリ』とは何なのか、会話の裏から掴み取れたらと、インタビューを行った。
(インタビュー・文:ユリアン)
ポップでキャッチーな「日々を彩る、田口のうた。」
——田口さんの歌って、思わず口ずさみたくなるキラーフレーズが多くてすごくキャッチーですが、どのように生まれるんですか?
『寝る前にフロス』とかはわかりやすいんですけど、喋り言葉がそのままミュージカルみたいに歌に乗るんですよ。『RENT』みたいな感じで(笑)
『寝る前にフロス』https://youtu.be/MhN4o73VeC4
フロスをしていなくて虫歯になったって衝撃を受けた時も、「知らなかった!みんな知ってた?」っていう憤りというか、「なんで誰も教えてくれなかったんだ!」っていう感情でいっぱいになったんです。夜に一人もやもやしていたら、自動的にラップみたいに言葉がリズムに乗ってきて、即ボイスメモに録ったら歌ができちゃってました(笑)
そんな感じで、多くは日常の中で、歌詞がメロディーにのって浮かんでくるんです。「日々を彩る、田口のうた」でしょ?
——共感のひみつはそんなところに! 田口さんの歌詞は、手元のアイテムや日常の一コマから始まって、宇宙だったり、気持ちの深いところだったり、遠くに飛んでいきますよね。これはあえて工夫して作詞しているんですか?
工夫しているのかな? 「頭の中どうなってるの?」とは、よく言われますけど(笑)
「日々の生活の中で出会うことは、全て歌になる」と思って暮らしています♪ そしたら、歌でどこにでも行けるということに気がついて、こんな風になってしまいました!どこでもドア〜(笑)
例えば、ベッドに独り寝て天井を見つめながら、頭の中で考えごとをしながら宇宙までいけるんです。
絵筆は「マイク」、絵具は「声」 歌で描く田口エリの情景
——田口さんは『寝る前にフロス』のジャケットや白衣にペイントしたり、絵も描きますよね。すごくオシャレでファッションセンスや色使いもすごいなと思うのですが、数ある才能の中でも音楽を選んで活動されている理由を聞かせてください。
うーん。それはやっぱり家族やこれまでの人生の流れが影響しているのかなー。エリって名前は、サザンオールスターズの『いとしのエリ―』からつけられた名前だし、カラオケが大好きな家庭だったんですよ。
成長の過程で、スポーツに打ち込んだり、アナウンサーを目指したりしたけど、辿り着いたのは「大好きな自分の声を武器にした表現者になりたい」っていう夢だった。
だから音楽家ではないの、本当に。作曲しているといっても、喋っている流れでメロディが出てくるから、頭を使って構築しているような意識がなくて。
伝えたいことを表現する手段として、自分の声を活かした歌がいいなっていう感じ。
——田口さんって曲を作るときに絵を描いてみるって言っていましたよね。絵を描くことは、田口さんにとってどんなことなんですか?
もともと色とか柄とかが大好きで。お洋服や家紋にも萌えます!
イラストは、無心になって頭の中のイメージを描けるものっていうか。感情とか音とか、目に見えないものにも、なんとなく色がついているなって私は思っていて。
上手いかというとそうではないんですよ(笑)周りには「なんかやばい」って言われてました(笑)美術の先生は、「将来他に目指すことがなければ、美術関係やってね」と言ってくれてました。
昔あったあんなこと、こんな思い。歌にのってほとばしる
——歌を表現の方法に選んだ田口さんですが、「歌手」としての思いみたいなものがあれば教えてください。
歌が上手なプロのミュージシャンっていうよりは、「演じきれる歌手」を目指してるところはありますね。
昔ハマった某俳優さんの影響で、俳優養成所に通ったことがあるんです。そこでね、表現したい作品やシーンに応じて、自分の感情とか経験を紐づけて発揮できるような訓練をしたんですよ。
その過程で、ミュージカルじゃないけど、私はやっぱり自分の気持ちとか伝えたい情景とかを、ちゃんと表現できる歌い手になりたいと思って。
——俳優になっちゃおう! とは思わなかったんですか?
ははは(笑)人が作った役を演じきる器用さっていうのが、私にはない気がして。俳優として頑張っていく自分は当時、全然イメージできなかったんです。やってみたい気持ちも少しはあったけど、やっぱり私は自分で作ったものを自分で表現をしたいんだなって。
台詞を覚えないといけない緊張感も、性格的に向いていないなと。自分で作った歌なら自分が正解なわけだし。ははは、ひーどい!(笑)と言いつつ、今後表現を続けていったらやりたくなるかもしれないですね。
田口エリに潜む飼い馴らせない”ケモノ”
——田口さんは歌手活動以外にも色々と精力的に活動していると思いますが、それでも歌手活動にのめり込むのは何故なのでしょう?
やっぱり、突き動かされてるんですよね。”ケモノ”に……。よかったら『才能』という曲を聞いてみてほしいんですけど。
『才能』https://youtu.be/Z0hK92ylDJs?si=jaJjxBkDrwgDXOOT
歌を作りながら、もがきながら生きなきゃいけなくて、疲れちゃうときもあります。でもなぜか前に進まないと気が済まない自分がいて、「歌以外のことをどうしてこんなに頑張らないといけないの?」「なんのために生きてるの?」って、自分の中で押し問答が始まるっていうか。
別に、誰に頼まれたわけでもないんですよ。私が歌とか表現活動をやめても、誰も何も言わないんです。
だけど、私の中のもう一人の私が「もっとやんなきゃだめだよ」「早く見つけ出して」って、許さない。暴れだすケモノがいるんです。もう一人の自分との戦いというか、『才能』との戦いというか。
——自己実現欲求に常に突き動かされているんですね。今後、そんな才能をどう活かしていきたいとかビジョンはありますか?
音楽を純粋に突き詰めるというよりは、音楽での表現を軸にして、マルチに活動していきたいです。
面白いサプライズっていうのかな? 『寝る前にフロス』っていう曲と、オリジナルグッズとしてのフロスを作って、それでみんなフロスの大切さを知って、虫歯にならなくなる。結果、私の自己表現がみんなの役に立つっていう(笑)
色んな人と関わって社会的にもコラボレーションしていきながら、面白いことをやりたい。SNSなどでも、気軽に発信していきたいですね。
自分だけが創り出せる「誰のものでもない世界」
——最後に。現在の『田口エリ』とはどのような存在ですか?
本名の「エリ」は漢字表記なんですけど、今はやっと、「田口エリ」として、いちアーティストとして幽体離脱した存在になれたなと思います。
みんなが曲にしないようなことも縦横無尽に曲にしちゃう♪ みんなの心に土足でお邪魔するけど跡が残らない、みたいな。ふっふふ(笑)
ファーストアルバム『ひとつ』をリリースするまでの過程で、誰のものでもない自分の世界を自分だけが創り出せるってわかったんです。本当は当たり前のことで、私だけじゃなくて、みんなそうなんですよ。
日々、色んな圧力に囲まれて生きてますよね。真面目に生きるほど打ち破れない殻があって、まともな感覚でいるほどつまらない気がしてしまう。世間に飲み込まれていく。
だけど、本当は誰にも邪魔されない世界を誰しも持っているんです。
みんな、結局自分のために生きてるの! 自分のことを大事にしよう。初めて「田口エリ」として作った曲である『うっとりしちゃう』っていう曲は、そんな私を象徴した曲なので、聞いてもらえたらな。
『うっとりしちゃう』https://youtu.be/5bkPPeUPI4M?si=KFyBnG3VB-nBHLDi
ライター後記
子どもが絵を描くように、歌を描く。そんな無邪気さの裏に、一人の大人として社会の荒波に揉まれながらアートの世界に挑戦し続けてきた、自己表現の”ケモノ”のようなエネルギーも感じさせられる。
「田口のうた」がなぜ日々を彩るのか、その答えがここにある気がした。誰しもが、毎日の生活をマネジメントしながらどうにかして自分の色を出そうと、表現したいと、もがいているのだ。
日常に潜む創造性をすくいあげて寄り添う。そういう音楽だから、「田口のうた」は多くの人の共感を呼んでやまないのではないか。
はたと気づかされた、”ケモノ”と日々バトルを続ける一人のライターであった。
(インタビュー・文:ユリアン)